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1.緒言

著者:
 ​ 若林信一(わかばやし しんいち)
      長野実装フォーラム代表理事

 現在、半導体産業は100兆円を目前にしており、従来の電子機器やスマートフォン、コンピュータに加えAI(Artificial Intelligence)やIoT(Internet of Things)など、多くの半導体を必要とする新しい用途が急拡大しており、次の社会の基本構造を形成する主要産業としてさらなる技術展開がなされている。考えてみれば、この分野の一角であるパッケージ、実装技術の開発に身を投じて、すでに半世紀近くが過ぎている。1970年代の後半は、日本の半導体産業が急成長し、絶頂期の‘88年には、日本が世界シェアの50%を占めたこともある。しかし、その後アメリカの政治力に屈してシェアを落とし、現在はシェアが10%にも満たない状況になっている。半導体技術は来るべき世界の基幹技術であり、安全保障上の最重要技術でもある。この観点から日本政府はあらためてその重要性を認識し、多額の資金を投じ、日本半導体の再生をかけて、IBMやTSMCの技術や工場の誘致に乗り出している。

 

 このような半導体産業や技術の大きな変化や消長の中で、技術がどう展開され、何が残って、何がさらなる展開を待っているのか、を振り返ってみることには、大きな意味があると考えられる。実際の現場では、若い技術者が出来上がった技術の中で、なぜそういうことになっているのかがわからなくなっている、という声が大きくなっている。産業として縮小していく中では、新しい技術の開発というよりは、現状維持が基本となるので、技術の伝承、開発マインドの維持が難しくなることは当然である。しかしながら、すたれていく技術があれば新しく開発、展開される技術もある。

 

 『失敗学のすすめ』(畑村洋太郎 講談社 2000年)は、すべての組織、技術は共通して、およそ30年で萌芽期から発展期、成熟期、そして衰退期、破滅期へと進むとしている、発展期には試行錯誤を繰り返しながら太く強固なプロセスが作られるが、成熟期にはメインプロセス以外を切り捨て、単純化が起こる。そして、徐々になぜそういうプロセスになっているのかの深い理解が失われ、衰退に向かうとされている。その中でちょっとした変更が、予期しない深刻な事態を招くことが、実例をあげて述べられている。

 

 半導体の実装技術においては、ピン挿入型のパッケージから表面実装、さらにはウエハーレベルパッケージやマルチチップパッケージ、高密度SiP(System in Package)やチップレットへと技術が展開されている。ここでは様々な材料や技術が使用されているが、それが採用されるにあたっては、それ相応の必然性や根拠がある。また、使われなくなった技術や材料も同様である。それらをあらためて、そういうことだったのか、と再認識することには、無意味な失敗を繰り返さないためにも、また、その良さをあらためて生かして使う知恵を生むことためにも大いに意味がある。

 

 半導体技術は微細配線が進めば進むほど高機能、高速、低価格が達成されることになる。このMooreの法則に導かれて半導体技術は長足な進歩を遂げた。このため、新しいチップが開発されれば、新しい実装技術が求められ、実装技術はその要求によくこたえてきた。現在では、半導体実装技術も、シングルチップからヘテロジニアスなマルチチップ実装へと進み、SiPやスマートフォンの高密度実装などの先端実装技術が開発されている。さらに大きな期待のもとに、SiCなどシリコン以外の半導体デバイスも開発されている。こういう中で、温故知新、もう一遍過去を振り返ることにより、心新たに新しい技術開発を進めることで、往時の勢いを取り戻したいと考えている。その一助として本稿を執筆した。若き実装技術者の皆さんの今後の活躍に期待したい。

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